その日、私に声を掛けてくださったのは、 70代前半ほどの男性のお客様だった。
「パターを探してるんだけどね・・・」
そう言うと、お客様は手に持っていた一冊のノートを捲りはじめた。そのノートはかなり使い込まれたものだった。
「あ、ちょっと待ってね・・・」
ノートを捲りながら呟くお客様。
会話をする中で、ノートを見せていただくと、クラブの名前がずらりと並んでいた。手書きで書かれた。
モデル名は、年代物の古いモデルから、比較的新しいモデルまでかなりの量だった。
「いや、実はね。このノート、もうかれこれ50年近く使い続けているんだよ」
50年!予想外の年数に、驚きを隠せなかった。
どんなに大切にしているノートでも、 年間も使い続けることは滅多に無いだろう。そのノートは、まさにお客様のゴルフの歴史そのものだと言えるし、色々な思い出が詰まった宝物かもしれない。
そして、ノートはお客様のクラブを選ぶ際にはとても参考になった。過去に使用したクラブについて感想などを質問し、良かった点や不満点を聞きながら長い接客の末に、一本のパターに辿り着いた。
「うんっ!これいいね!」
お客様が手に取ったのは、試行錯誤の上でお勧めした、オデッセイのパター。
「あまり使ったことの無いモデルの様ですが、とても合っていると思います!」
「うん、いい!よし、購入しよう」
喜んでいただけたことに満足して、レジへ向かおうと思った瞬間、お客様に呼び止められた。
「そうそう、君の名前をフルネームで教えて?」
「え?はい。」
名刺を差し出すと、お客様は手に持っているノートへ、購入したパターのメーカー名とモデル名を書きその横に私の名前を書き始めた。そして一言。
「これで、君も僕のゴルフの歴史の一つになるね!ありがとう。」
お客様の歴史に、自分の名前が残る・・・。
50年間も大切にしているノートに、自分の名前が書かれていく。その様子に照れ臭さを感じたが、同時に嬉しさが胸に込み上げて来た。
そうか、接客は「出会い」なんだ。
同じことを繰り返す、毎日の中で、徐々に忘れていた感情。それは、初めて出会うお客様と、大好きなゴルフのことで語り合う「楽しさ」や「嬉しさ」。
これからは、もっと「想い」を込めて、一つひとつの出会いを大切にしよう。そして、楽しさや嬉しさをお客様に感じていただける、そんな接客が出来る様になる。
そう心に誓う出来事でした。